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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)5748号 判決 1971年12月10日

原告 鳥羽武夫

右訴訟代理人弁護士 馬場英彦

被告 高橋仙次郎

右訴訟代理人弁護士 川本赳夫

主文

一  被告は原告に対し、金二一八万七、〇〇〇円およびこれに対する昭和四五年六月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  第一項は、原告において金四〇万円の担保を供するときはかりに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金五二二万七、三二九円およびこれに対する昭和四五年六月二〇日から、支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四四年二月二七日、訴外島貫武広の代理人である被告との間で右島貫所有の別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)を代金四、〇二五万円で買い受ける旨の契約を締結した。

2  本件土地の実測面積は登記簿上の表示のとおり一四七坪であるが、被告は、右売買契約の締結にあたり、そのことを知りながら原告に対し、本件土地の面積は、登記簿上は一四七坪と表示されているが、実測上は一六〇・九八坪あると虚偽の事実を告げて原告をそのように誤信させた。そして、本件土地の売買価格は、坪単価を金二五万円とし、これに一六一を乗じた金四、〇二五万円と約定された。

原告は、右約定に基づく売買代金四、〇二五万円を被告に支払った。

3  ところが、右売買契約に基づく移転登記および引渡が完了した後、原告は、本件土地の面積は登記簿上の表示のとおり一四七坪しかなく、被告が告げた一六〇・九八坪というのは本件土地の隣接地である東京都有地一三・九八坪を加えた数字であることを発見した。

4  原告は、被告の虚言を信じて右売買契約を締結したために、次のとおりの損害を蒙った。

(一) 原告は、売買代金として、坪金二五万円の割合による都有地一三・九八坪の分金三四九万五、〇〇〇円を余分に支払い、同額の損害を蒙った。

(二) 原告は、前記売買代金を訴外株式会社大和銀行からの借入金によって賄ったが、右(一)の金三四九万五、〇〇〇円に対する昭和四四年三月一五日から昭和四五年五月末日までの約定利率日歩二銭六厘の割合による利息金三一万五、五六三円を故なく支出し、同額の損害を蒙った。

(三) 原告は、本件土地上にマンションの建設を計画し、その設計を訴外株式会社渡辺建築設計事務所に、その建築施行を訴外株式会社奥村組に依頼したところ、東京都から前記都有地の所有権に基づき建築の変更を求められたため、設計を変更し、工事開始の遅延をきたした。このため原告は、設計変更料として金五〇万円を支払い、同額の損害を蒙ったほか、工事開始遅延のため金七六万六、七六六円の損害を蒙った。

(四) 原告は、本件訴訟を提起するに当り、原告代理人馬場英彦に弁護士費用として金一五万円を支払い、同額の損害を蒙った。

よって、原告は被告に対し、右損害金合計金五二二万七、三二九円およびこれに対する訴状到達の翌日である昭和四五年六月二〇日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

第1項の事実中売買代金額は否認し、その他は認める。第2項の事実中本件土地の公簿上および実測面積がともに一四七坪であることは認め、その他は否認する。第3項の事実中本件土地の面積の点は認め、その他は否認する。第4項(一)の事実は否認し、同(二)ないし(四)の事実は知らない。本件土地の売買代金額は、売主である島貫の手取金を三、八六四万円とする約定であった。

第三証拠≪省略≫

理由

一  原告が昭和四四年二月二七日訴外島貫武広の代理人である被告との間で、右島貫所有の本件土地を買い受ける契約を締結したことは当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫によれば、右売買契約においては、本件土地の公簿上の面積は一四七坪であるが実測では一六〇・九八坪あるものとし、坪当りの売買価格を金二五万円と定め、これに一六一を乗じた金四、〇二五万をもって代金総額とする約定がなされたこと、原告は、右売買代金の内金七〇〇万円を右契約成立の際、残金三、三二五万円を昭和四四年三月一五日それぞれ被告に支払ったことが認められる。被告本人は、被告側の手取額を金三、八六四万円とし、この額をもって売買代金額と定めた旨供述するが、右供述は、原告が前述のように合計金四〇二五万円を被告に支払ったことと≪証拠省略≫に照らしにわかに採用し難く、他に右認定を左右する証拠はない。そして、≪証拠省略≫によれば、本件土地の北側端は北に向って急激に落ち込む傾斜地となっていて、その傾斜地の一部一三・九八坪は東京都有地であったこと、そして、前記売買契約にあたり、被告は本件土地の実測図を原告に示したが、右実測図は、本件土地に右都有地を加えた範囲の土地をあたかも一筆の土地の如くに測量してその面積を一六〇・九八坪と算出し、これを一、三八九番一〇の土地(本件土地)と表示したものであったこと、すなわち、本件土地の実測面積は公簿上の面積と同じ一四七坪にすぎなかったこと、右売買契約が締結された当時被告は本件土地の実測面積が公簿上の面積と同じ一四七坪であることを知っていたが、原告は、右実測図を示されたことと右売買の仲介者である訴外秋山哲之助から本件土地の実測面積が一六〇・九八坪である旨告げられたことのために本件土地の実測面積が真実一六〇・九八坪あるものと信じて右売買契約を締結したことがそれぞれ認められる。そうすると、被告は、本件土地の実測面積が公簿面積と同じ一四七坪であることを知りながら、その実測面積が一六〇・九八坪あるものと信じている原告との間で、所有者島貫の代理人として、本件土地の実測面積が一六〇・九八坪あるものとして売買契約を締結し、その実測と称する面積を基準として算出した売買代金を収受したのであるから、原告をしてそのような契約を締結させ代金の支払をさせたことにつき、故意による不法行為責任を免れることができないというべきである。したがって、被告は原告に対し、原告がこれによって蒙った損害を賠償する義務がある。

二  そこで進んで原告の蒙った損害について判断する。

(一)  前述したように本件土地の売買価格は坪当り金二五万円と約定されたのであるから、代金額計算の基礎とされた一六〇・九八坪のうち実在しない一三・九八坪の分金三四九万五、〇〇〇円については原告は、これを支払う義務がないのにその支払をし、もって同額の損害を蒙ったというべきである。

(二)  ≪証拠省略≫によれば、原告は、本件土地上にいわゆるマンションを建設することを計画し、訴外渡辺建築設計事務所にその設計を、訴外奥村組にその建築をそれぞれ依頼するとともに、昭和四四年七月二三日訴外大和銀行からその建設資金として金四、〇〇〇万円を利息日歩二銭六厘の約束で借り受けたこと、右設計は本件土地の面積が一六〇・九八坪あることを前提としてなされたところ、のちにその面積が公簿上の面積と同じ一四七坪にすぎないことが判明したため当初の設計を変更するほかなくなり、原告は、右設計事務所から設計変更の手数料として金五〇万円を請求されたこと、右設計の変更のため、建築工事の着工は七〇日余遅延したことがそれぞれ認められる。しかし、原告が銀行から多額の融資を受けて本件土地上にマンションを建設することは本件土地の売買にあたり通常予見することができた事情であったということはできないから、原告が右の融資を受けて利息の支払をしたこと、または設計変更をしたことにより損害を蒙ったとしても、その損害は特別の事情による損害であって、被告が、その損害を賠償する義務を負うのは被告がその不法行為に際しそのような損害を生ずべきことを知りまたは知り得べきであった場合にかぎられるというべきである。

しかるに、被告が前記売買契約の締結またはその売買代金の受領に際し、そのことを知りまたは知り得べきであったことを認めるに足りる証拠はない。したがって、被告は、右の点に関する損害の賠償をする義務を負うものではない。

(三)  ≪証拠省略≫によれば、原告は、本件訴の提起につき、原告訴訟代理人馬場英彦に対し、着手金として金一五万円を支払ったことが認められる。そして、原告が右の出捐をしたのは被告が原告をして前記売買契約の締結およびその代金の支払をさせたことによるものであり、したがって原告は、これにより同額の損害を蒙ったというべきである。

三  ところで、≪証拠省略≫によれば、前記売買契約の締結にあたり被告が原告に示した本件土地の実測図面には公図の写が附記されていたが、右実測図と公図写を比較対照すると、実測図において本件土地とされている部分の形状と公図写における本件土地の形状とはあきらかに相違していることが一見して看取されるところであり、しかも右の実測図が本件土地の範囲を正確に把握しているかどうかおよび本件土地の正確な実測面積については、右の公図との対比および他の若干の調査によってたやすくたしかめることができたというべきであるところ、≪証拠省略≫によれば、原告は、右契約の締結にあたり右の点につき何の調査もしなかったことがあきらかであるから、原告が右売買契約の締結および代金の支払によって損害を蒙ったことにつき原告にも過失があったといわなければならない。そして、原告の右過失を斟酌するときは、前記原告が蒙った損害額から四割を控除した金額をもって被告が原告に賠償すべき損害額と定めるのが相当である。

四  そうすると、被告は原告に対し、前記第二項(一)および(三)の損害額の合計金三六四万五、〇〇〇円から四割を控除した金二一八万七、〇〇〇円およびこれに対する原告が損害を蒙った日の後である昭和四五年六月二〇日から完済に至るまで民事法定利率年五分の遅延損害金を支払う義務があり、原告の請求は右の限度で理由があるが、その余は失当である。

よって、右の限度で原告の請求を認容してその余を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 橘勝治)

<以下省略>

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